TOL 帰れずに 帰らずに。




がさ がさ

    さく さく







  乾いた地面を踏む その音が

  私が 今




『行くな、クロエ……っ!』










  ひとりであることを 教えてくれる。















――覚悟あらば剣を手に、参られよ。――




  手に 固く握り締めた、手紙

  辛うじて 森に差し込む光は
  余計、禍々しい物を増やすだけ




  今、光が照らし出せるのは 紅い長剣。
  ただ、それだけ。




『クロエ…お前……っ!』




  その紅は
  戦友であり、淡い感情を自分に抱かせた

  彼の 血。




(……あれで、よかったんだ)




  彼の 血の呼びとめは
  剣を濡らすことで 聞かなかった事にして




(私は……敵討ちがしたくて、遺跡船に来たのだから)




  そう、むりやりに

  言い聞かせる。




「……馴れ合った時間は、長かった」




  けど それも




「―――もう、終わりだ」










がさがさ


  思い出を切り捨てて


    さくさく


  心を 無にして







ひたすら森を 歩く。
















ぽた。



  朝露が 頬を滑る

  まるで 私の代理のように
  まるで 私の本心のように

  けれど、今は無視したかった




(…雨、じゃないか)




  全ては 雨の日に始まる。




発端も。

再意識も。

…決心も。




  決着も、雨なのだろうか。

  決着で、胸を撫で下ろす事が できるのだろうか。




『一人で苦しむなよ』




  懸命に 手を差し伸べる。





  眩しい光を

  暗い 憎しみに落ちた


  私に。




『剣を抜けば、引き返せなくなるぞ』




  …引き返すべき、だったのだろうか。

  暖かな 仲間の所へ。







  でも

  蘇った ちっぽけな感情は




『―――もとより、引き返すつもりなど、ない!』




  確実に
  私の心を、黒く 染めていて







  雨に打たれて 意志が冷たく凍りついた私は

  7つの太陽の陽だまりに戻ると 溶けてしまうと思うから



  溶かしたくないけど 溶かしてほしい

  そんな自分が、ここにいる。






  黒い私は、迷う私の背中を “むりやり”押した


  彼を 傷つけてまで。




『……クロエは…っ、―――仲間だろ……』




(私には、そんなものいらなかったんだ)




  そう
  最初から なければ




『大切なっ……仲間……だろ……』




  迷う事も、無かったのに。








  苦しい

  けど 呼び止めようとする 彼




(私に……そう呼ばれる資格は、無い)




「―――その言葉を」




  これで良かったのか 分からない




「素直に受け取れれば……」




  これで悪かったのか 分からない




「よかったのにな……」









ただ 呟きは後悔を乗せて。
















  けど

  今 できる事は

  この剣を
  もう一度 別の紅で濡らす事しか

  ない、のかもしれない。

  …いや、それしかないのだ。







私には、もう帰れる場所は 無いんだから。














……私は、どうしたら よかったんだろう。









セネルを傷つけてから一人で帰らずの森を歩いている途中です。
きっと、一人で仇の所へ向かう間、いろんなことを考えていたんじゃないかなぁ、と。