ぴん、ぽーん。

 静かな休日の早朝に響き渡ったインターホンの音で、俺とリンはやむなく目を覚まし、布団からのそのそと這い出た。

 どちらもまだ寝ぼけ眼で、目を擦りながらむにゃむにゃと呟く。


「……レン、でてよ」

「昨日は俺が宅配便でただろ……」


 低いテンションで言い合うこと数回、結局いつものように俺が折れることで収拾がつき、俺は仕方なく重たい体を引きずって玄関へと赴いた。

 寝巻きのままだったが、この際気にしない。こんな近所迷惑な時間帯に来るのは遅れてやってきた新聞配達か、何故こんな仕事があるのだろうと常々思うセールスの類のみだ。

 全く、休みくらい寝かせてくれよ。そう悪態をつきながらドアノブを捻る。はぁい、と欠伸交じりで応答して、相手の顔を窺った。

 途端に目が覚めたね。


「あ、レン君が出てきた。 おはよう」

「みみみ、ミク姉っ。 お、おはおはよう」


 なんてこった。こんなだらしのない姿を知り合いに、しかもよりにもよってミク姉に!!

 思わずその場にがくーんとうなだれたい気分になった。ああ、時が巻き戻る何かはないものか。そしてそこに未来予測できるなにかがあると更に良し。

 しかし現実は現実だった。「あー、レン君まだパジャマだ」とミク姉は笑う。それは単なる笑みか、嘲笑か、いやミク姉に限って嘲笑うなんて有り得ないって言うのは俺の勝手な妄想でしかないんだけど。

 俺が羞恥のあまりその場に固まっていると、俺の声を聞いてかリンが奥から出てきた。畜生、ちゃっかり着替えやがって。


「わぁ、ミク姉っ! おはよー」

「おはようリンちゃん。 あ、ルカちゃんもおはよう」


 ミク姉はリンに挨拶した後、ドアが開いた隣の家に挨拶をする。どうやらここがやかましくて何事かとでてきたというところか。そういえば、ルカ姉が来てから初めての休日だ。

 ミク姉はルカ姉にこっち来てと手招きをする。ルカ姉は少し困惑しながらも、こちらへと歩いてきた。手には一冊の雑誌。何の雑誌だろう。


「お、おはようございます。 ……あの、皆さんおそろいで、何を?」

「私は大抵、お休みはこの子達と遊んでるから。 今日も遊びに着ただけなのよ」


 それにしては随分早い到着だ。まだ朝ご飯も済ませてないのに。いつもはミク姉はお昼を一緒に食べる頃にこっちに遊びに来て…。


「何を言ってるの? もうお昼よ、レン君」


 言われてみれば、真っ青な晴れ模様の空の高いところに眩しく太陽が輝いている。もうそんな時間だったのか。今日は寝坊したんだな。やっぱり昨日ゲームに熱中しすぎた。

 ミク姉は顔を赤くした俺をくすくす笑うと(おかげで余計に恥ずかしくなった)、ルカ姉と一緒に家に上がりこんできた。

 俺はとりあえず着替える為に自室へと戻り、女性陣はきゃいきゃい言いながら昼食の準備を始めた。カイ兄は今日は来ないらしい。アイスの食いすぎでぶっ倒れたんだろうか。

 俺が着替え終わって程なくして、昼食の準備が整った。今日は焼きそばらしい。野菜はいつもどおりキャベツと人参が入って、そこに適度な肉、そして何故かタコが所々に顔を覗かせていた。


「ルカ姉の好みなんだって」


 リンがそう答えると、ルカ姉は少し恥ずかしそうに下を向いた。ルカ姉タコ好きなのか。

 そういやルカ姉って家事出来るのだろうか。リンよりは上手いと思う。そこは大人の女の人だし。

 濃厚なソースの香りが食欲をそそる。早速みんなで手を合わせ、いただきまーす、と声をそろえた。

 ………うん、美味い。何だ、タコって案外焼きそばに合うのか。刺身と寿司と、それからたこ焼きに入ってるくらいしかタコの使い道を知らなかったので、俺は驚いた。


「美味しいねー。 ルカちゃん、歌だけじゃなく手料理も上手なのね」

「いえ、私なんてまだまだですよ」

「ルカ姉がまだまだだったら、レンなんて全然になっちゃうじゃない」


 あはは、と笑うリンに俺は思わず手を出した。ゴツン、頭に一発。するとすぐに犬のように歯をむき出して、怒りをあらわにするリン。


「いったいな! 本当のことじゃない」

「言いすぎだろ! リンだって大して俺と実績変わんないくせに」

「言ったわね!」


 今にも取っ組み合いが始まるところだったが、ミク姉が「まあまあ、食事中だし」と宥めることで俺は怒りが消え、次いでリンも治まった。

 それを見ていたルカ姉は何故か、くすくすと笑い出した。え、なにかおかしかったか?

 

 

 

 

「初めて会ったときも、そんなやり取りされてましたよね」

 

 

 

 


 そう。それは一週間ほど前のことだった。

 いつものようにリンと俺は朝食を取っていた。今日の仕事はお互いソロで、収録は午後から。まだまだ時間的に余裕があり、俺たちは悠々とトーストにジャムを塗りたくってかじっていた。

 イチゴが空になった、リンが塗りすぎなんだ、レンこそ一枚のトーストに二種類ジャム塗るなんて贅沢よ、なんて言い合っていると、

 ぴん、ぽーん。

 会話を途切れさせる魔法の音、インターホンが鳴り響いた。

 こんな朝早くの客なんて、一体誰だよ。どうせろくなヤツじゃないと思った俺は、適当にリンにでさせようと思ったのだが、この日もやっぱり最終的に俺が折れ、しぶしぶ食べかけのトーストを皿に置いた。

 いくら時間があるからって、余計な応答はごめんだぞ。この野郎。

 苛々しながらドアノブを捻る。開けた視界の先には、見慣れた空色のツインテールが見えた。


「え、ミク姉?」


 おはよう、とにっこり笑いかけるその人は確かにミク姉だった。でもなんだってこんな早朝に、と思った瞬間、俺はいつもと違うことに気付いた。

 ミク姉の後ろに、長身の人影が。

 カイ兄ではない。少し先がウェーブした、ブロンドを思わせる綺麗な桃色の長髪。

 そしてそれは女性であるようだ。ミク姉やリンにはない、豊満な胸。綺麗な白い肌。スリットの入った、おへそがちらりと覗く、そんな色気のある衣装。

 顔なんて見ると、俺はその場で固まってしまった。目の前にミク姉がいるってのに。

 あまりの声のしなさにかリンがぱたぱたと玄関に出てきた。でも俺はその時、リンが来たことに気付けていなかった。


「レン、どうしたの? …あ、ミク姉! と………だあれ、そのひと」


 かたまった俺を無視して、リンは俺が釘付けになっている人物に焦点を当てた。

 ミク姉はその人物が手前に来るように位置を調整し、紹介を始めた。


「えっと。 明日から私たちの隣にすむ、巡音ルカちゃん。 リンちゃんたちにも紹介しようと思って」


 朝早くにごめんね、と言いながら、ルカちゃん、挨拶してあげてとミク姉はルカさんを促した。今思えば、何故いかにも年上である人を「ちゃん」付けなのか疑問に思わなかったものだろうか。

 ミク姉が可愛い顔ならこの人は綺麗な顔と言うだろう、という非常に整った顔立ちの、さながら「美人」という言葉の具現化は、クールに見える表情を崩さずに頭を下げた。


「……初めまして」


 今まで聞いたことないような、俺の知っている中で女性にしては低めのハスキーボイス。……これが大人の声、なのか?

 思わずどきりとしてしまったのは、ミク姉やリンには内緒だ。

 いまだドアノブに手をかけた状態で固まっていた俺を、リンは容赦なくどついた。


「何ぼけっとしてんのよ」


 ふらりと力なくよろめいた俺を、ミク姉が支えてくれる。普段ならこれ以上の至福はないと思うところだが、あまりの展開に俺はすっかり力が抜けていた。

 ……何ていうか、俺の知っている誰とも違う、不思議なオーラを感じる。言葉では言い表せないけど、この人特有の……ん?

 この「巡音ルカ」さんを何と呼べばいいのだろう。きわめて単純な疑問にぶつかった。

 考えていると、ミク姉の腕から離れて棒立ちになっている俺の横に唐突にリンが出てきて、興奮しながら口を開いた。


「ねえ、ルカ姉!!」


 あ、お前、なに軽々しくルカ姉なんて呼んでんだよ!!

 と思ったのもつかの間、どうやら呼ばれた本人は気にしていないようで、普通にリンのマシンガンの様に連続射出される質問に淡々と答えていた。

 いいのか。それで。

 ……暫く、リンのルカ姉(俺も便乗することにしよう)に対する勢いは止まらず、時折ミク姉がその会話に笑顔で相槌を打っていた。俺だけ蚊帳の外。なんだか気に入らない。

 そこで俺は、今の自分の服装を思い出した。会話に参加したいのもあるけど、とりあえず、今の格好をどうにかしたい。初対面でいきなり寝巻きってのは駄目だろ。いや、もう遅いけど。今からでも。

 しかしいきなり撤退するのもまずかろうと思い至ったところで、突然リンの声がこちらに飛んできた。


「ねっ! レンもそう思うよね」


 なにが「ねっ!」だ。話を聞いていなかった俺は驚いて適当に「ああ、うん」と生返事を返した。

 すると、笑顔から一変、むくむくとリンの頬が膨らむ。眉がつり上がる。先程とはうって変わって、リンは低い声で呟いた。


「……レン、ルカ姉に見とれてたでしょ」

「は? 俺は別に……」

「嘘。 絶対そう! 顔がデレデレしてるもん」


 突然何をいいだすんだ。まず何を根拠に嘘だと言ってくるのかが理解できなかった。話を聞いてなかっただけだろ。何で怒ってるんだ?

 理不尽なリンの態度にいらっとした俺は、思わず口調がケンカ腰になった。


「……なんだよ。 リンだって、初対面なのにいきなりルカ姉〜って。 べたべたしすぎだろ!」

「鼻の下伸ばしてるレンになんか言われたくない!」

「そんなことないって言ってるだろ! 俺は…」


 そのまま言い争いに突入してしまった。ミク姉とルカ姉のことなんて頭からすっぽり抜け落ちていて、俺はただリンの言い方にいらついていた。

 暫く舌戦が続き、そのうちにリンが顔を真っ赤にしてう〜〜〜、と唸り、俯いた後小さく「もういい」と零した。


「もう、いい。 レンなんか嫌い。 だいっきらい!!」


 俺を睨み付けて近所迷惑も顧みずそう叫ぶと、リンは駆け出して家の中へと姿を消した。バタン、とドアの閉まる音。自室に篭ってしまったのだろうか。

 おろおろするミク姉。特に変わらないルカ姉。そして、俺だけが残された。

 あまりにも突然すぎる展開。俺はただ、呆然としていた。怒りはとっくに冷め、後にはしまったなあ、という後悔しか残らない。

 言い過ぎたかな……。

 でも、リンが先に言ってきたんだぞ。

 そんなの、理由にならない。

 せっかく新入りのルカ姉をミク姉が連れてきてくれたのに、いきなりケンカって何だよ。

 ここはやっぱり、気まずくならないうちに謝らないといけないんじゃないか?

 …冷静に考えると、俺はいつもこうだ。リンのケンカを買って、リンが拗ねて、最終的には俺から謝る。

 それってなんだかおかしい、とも思うけど、やっぱりケンカしたままは嫌だし、リンは一度拗ねるとなかなか意地を曲げない。

 誰かが解決するしかない。そして、誰かというのは俺でしかありえなかった。

 ルカ姉はなんて思うだろう。我侭なリンに付き合う俺を、かわいそうだと思うのだろうか。それとも、俺を優しいやつだと思うのだろうか。第一印象は重要だ。既に俺は寝巻きという第一印象を植え付けてしまってるけど。

 …いや、こうなった以上他人はどうでもいい。とにかく、現状を打破。いつもどおり俺が謝って、この場は解決。リンに謝ってもらうのはまた今度でいいんだ。またこっそり家事当番を変えれば気は済むだろう、俺。

 状況を飲み込めていないであろうルカ姉はミク姉に任せて、俺はため息をつきながら歩きなれた廊下を引き返した。

 

 

 リンはすぐに見つかった。台所で顔を伏せしゃがみこんでいる。

 一応、リンも反省している……のか?顔が見えないので表情が読めない。まさか泣いてるなんてないよな。

 恐れ半分、理不尽さ半分で、俺はリンの背中に手を伸ばした。


「なあ、何であんな怒ったりしたんだよ。 ルカ姉が困るだろ、いきなり……」


 彼女の名前を出した瞬間、リンは今まで見た事がないような怒りに歪んだ顔を上げた。わずかだが、涙の痕も見えた。

 その迫力に思わずのけぞり、慌てて手を引っ込める。触ってはならない、これは怒りをぶつける一歩手前の一触即発状態だ。そうとっさに判断した。

 さっきからのリンはなんか変だ。新顔のルカ姉に甘えてたと思ったら、いきなり不機嫌になるし。朝まで普通だと思ったんだけどな。

 お互い空気と一緒に固まったまま、数秒が経過した。すぐ外にはミク姉たちがいるのに、不気味なほど静かだ。

 声を出すのもはばかられる静寂を破ったのは、再び顔を伏せたリンの小さな嗚咽だった。


「……だって、レンはルカ姉のほうが好きなんでしょ」

「はぁ……?」

「…………そうだよね、だってあたしルカ姉より全然いい子じゃないし」


 無神経に返した所為か、リンはさらに声のボリュームを下げ、顔も伏せっていく。やばかったかな。でもあまりにも意味がわからないんだ。

 さっきの会話でどうしたら俺がルカ姉を好きなんて構図が出来るんだ。しかも比べる対象がリンだって。比べられないだろ、普通。年の差とかもあるし。

 困惑している俺をそっちのけで、リンの呟きはとまらない。間には何度かしゃっくりが挟まっている。きっと今顔を上げたらくしゃくしゃだろう。


「あたしもルカ姉、もう大好きだもん。 いいお姉ちゃんだと思うもん」

「まあ、人は良さそうだったよな」

「レンがミク姉とかルカ姉に流れてくのは仕方ないんだもん」


 なんだか独り言の域になってきている。俺の相槌を聞こうともしていない。何でそこでミク姉が――

 ん?


「……リン、もしかして嫉妬してんの?」


 へ、と間抜けな声が漏れ、リンはくしゃくしゃ顔をあげた。

 そうだ。そうなんだよ。ようやく合点がいった。


「リンにはないものいろいろ持ってるっぽいもんな、ルカ姉。 …歌唱能力とか」


 あえて大人の美貌とか色気とは言わない。それは絶対傷つく。不確定な要素でごまかす作戦だ。

 しかしそこまで配慮してもやっぱり傷ついたようで――まあ、半分は図星当てられたショックなんだろうけど――リンは大きな瞳にまた涙を溜め始めた。

 でも、これでこの場を言い繕う方法が見つかった。実はなんて謝ったら良いものかと悩んでいたのだ。

 善は急げ。俺は早速その言葉を口にする。


「でも、リンだってリンにしかない魅力があるって。 こないだプロデューサーも言ってたじゃないか」

「……具体的にいって」


 自信持てよと続ける前に、リンが泣き声で口を挟んだ。

 すごい切り口だ。いや、予想はある程度出来たはずだけど。しまったな、ちょっと名案が浮かんだと思ったらこれだ。

 まあ、色々だよ、とかいってごまかしたら、リンはむすっと唇を尖らせて、頬を膨らませてしまった。ここまで来るとまるでガキだ。


 ……仕方がない。奥の手を使おう。


「………とにかく。 俺はリンが一番だと思ってるから!」


 大きく息を吸ってから、俺はそうリンの真正面から告げた。

 奥の手は非常に恥ずかしい。ちくしょ、本当なら一生に一回でも言いたくない、こんなこっぱずかしい台詞。

 しかし、さすがは奥の手。リンの機嫌はやっとこさ上昇方向へ向かい始めたようだ。

 少し間が空いたあと、誰とも違う可愛らしい顔立ちにようやく笑みが差す。


「レン、顔真っ赤」

「……言うなよ。 そもそもリンが拗ねるから、こんなことする羽目に…」

「うん、ありがと」


 くすくすと笑うリンの表情はもういつもどおりだった。

 

 

 そのあと、俺は火照った顔のまま戻るのが恥ずかしかったので冷水で顔を洗い、ついでに服も着替えてから、二人のところへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 という話があったのだが、実はケンカしてからの件(くだり)は誰にも話していない。


「それで、どうしてケンカしちゃったんですか? あの時はよくわからなくて。 ずっと気になってたんです」


 と、ケンカの原因を聞かれると、一部始終を話さなくてはならなくなるのだが、自分からは終盤部分が恥ずかしくてなかなか話せない。くそ、奥の手のデメリットはこれだ。

 おまけに自分であのときのことを思い出すと今でも恥ずかしくなる。そして顔の紅潮を指摘される。リンはいやに楽しそうににこにこしてるし。


「なんかその……ヒステリーだよ、リンの。 たまにあるんだ」


 視線を泳がせながらそんな言い訳を使ったら、まさしくヒステリーさながら表情が一変したリンが飛び掛ってきた。…冗談とマジな話の区別くらいわかってくれよ、頼むから。

 へー初めて知った、とのんきに言うのはミク姉。いや、だって嘘だし。当たり前ですよ。でもそれこそミク姉だ。

 でも、と笑みを顔に湛えて続けるのはミク姉。


「ケンカするほど仲が良いっていうもんね。 うん、この言葉ってリンちゃんとレンくんにぴったりじゃない?」


 自分で頷きながらにこにこ嬉しそうにしているミク姉を見ていると、つい「そうですね」と同調したくなる。でも、俺たちの場合ケンカというよりただお互いの我の通し合いのような気もしなくもないんだけど…。

 リンの反応はどうだろうとうかがってみると、どうやらまんざらでもないようだ。あいつ俺と違って細かいこと考えないからな。

 そこからは皆で談笑をしながら、いつしかルカ姉の美味しい焼きそばを食べ終わっていた。ご馳走様でした、と手を合わせる。

 お皿片付けるねー、ミク姉が席を立つ。ルカ姉も手伝いに立った。俺だけ準備も後片付けもしないのはダメだろうと思い、慌てて俺もついて行こうとする。

 すると、服の裾をまだ座りっぱなしのリンにつかまれた。表情はとても機嫌がよさそうだ。


「えへへー」

「……なんだよ」

「仲が良いんだって。 あたしたち」

「そりゃ…まあ、そうなんじゃねえの、普通。同じ家に住んでるわけだし」


 適当にあしらってもリンは嬉しそうだ。余程ミク姉の言葉が気に入ったのだろう。

 リンの笑顔に見つめられていると、なんだか恥ずかしくなってきた。やばい、リンってこんなに可愛かったっけ?


「ね、アレ出しておこうよ、最近買ったゲーム。 対戦モードであたしたちに勝てないものはないってルカ姉に思い知らせてやるわ」

「まだルカ姉に対抗してんのか」

「違うもん。 あたしたちの仲の良さを証明するために…」

「それ以上いうな。 …こっちが恥ずかしいだろ」


 楽しそうに笑うリンにやっぱりため息をつきたくなったが、肩を竦めるだけに留めて、俺はゲーム機のしまってある棚に手を伸ばした。