じゅう、と小気味いい音が熱されたフライパンの上で跳ねた。火力は魔導器が使えなくなった今、倉庫に眠っていた一昔前のコンロを使っている。使いにくいのはもう慣れた。

 油と共に踊っている目玉焼きは、二人分。人の食事を作るのは久々だった。

 リタが自分の言い訳に付き合ってここに住むと決めてから、三日が過ぎていた。

 荷物らしい荷物は紙資料の束と着替えくらいだというので、とりあえず物置になっていた部屋から使えそうな家具を選り、それなりに部屋の掃除をしてその日の一日が終わった。

 次の日目が覚めてみたら、早速部屋の境の扉に「勝手に入るな」の張り紙があって苦笑い。

 そういえば本宅にも同じような注意書きがあったと聞いている。信頼しない性格なのか、自分が信用されてないのか。

 余計な口を出したらどうなるかは十分知っているので、とりあえず腹を空かして出て来るまで放って置いてみようと無干渉でいたら、とうとう一日中出て来なかったのには流石に驚いた。

 自分の外出中にでもなにか食べたのだろうかと思ったが、台所で自炊した様子はない。まさか何も食べていないのではと疑うと、扉越しに彼女はさらりと肯定した。


(…何と言うか、扱いの難しい子を迎えちゃったな、こりゃ)


 ただでさえ年頃の女子との付き合い方がわからないのに、加えてとんでもない非常人。リタを敬遠していたアスピオの連中の気持ちが少しだけわかりかけてしまっていた。

 そして現在、自分の朝食とリタへの差し入れを調理しているところである。拒否されようがうざがられようが食べさせる腹積もりだ。


(独身なのに、既に思春期の子供を抱えた母親のようだな)


 父親ではないところがポイントである。一人でこっそり苦笑した。

 そんなことを考えている間に美味しそうな匂いがフライパンから漂ってきた。そろそろ食べ頃だろう。

 リタが卵に関して半熟派か完熟派かわからないので、適当に焼いてしまったが、とりあえず持っていくことにする。

 小皿を二枚戸棚から取り出して、それぞれに焼きたての目玉焼きと一緒に茹でていた野菜をいくつか盛りつける。

 それらを盆に載せ、手に持てばあとは隣の部屋へと続く扉に拳を振り下ろすだけだ。

 しかし、扉の前に立ちノックしようとしたまさにその瞬間扉が自分から見て奥へと開き、拳は宙を進んでつられて体が前につんのめる。

 そんな自分の身体を支えたのは、中から出てこようとしていた小柄な少女。朝食を届けようと思っていた相手リタ・モルディオその人。…それ以外の人間が出てきたら不法侵入だが。


「…お、おはよ〜」

「ん……。 おはよう」


 リタがここに移り住んでから初めて朝の挨拶を交わした。…なんだかおかしな感じである。

 突然だったのでぎこちない挨拶になってしまったが、向こうはいつもどおりそっけない言葉を返してきた。部屋に篭りきりでも体調に問題はなさそうだ。

 ふわあ、と欠伸をひとつするとリタは鼻をすんすんと動かし、そして盆の上に乗っているものに目をつけた。


「なにそれ」

「……あ、リタここにきてから何も食べてないみたいだし…その、朝ご飯でもと思ったんだけど」

「ふーん。 これあたしの?」


 食べたか食べてないかくらい白状するかと思ったが、どちらともいわずに淡白な反応を見せた。ぱっと片方の皿とフォークを取る。ある食事はとりあえず貰うというあたり、ペットでも飼っている様な気分だ。

 その場で食べようとしたリタに、「ちゃんと座って食べんさい」と席を勧めると、少し面倒くさいと主張しているような表情をしたあと、のろのろと席についた。

 自分も一緒に椅子に腰掛け、いただきまーすと両手を合わせる。それを見たリタも、一旦フォークを置いて手を合わせた。自分の真似をしてくれた事に思わず笑みがこぼれる。

 視線に気付いた途端に手の平を離し、顔を赤らめて黙々と食べ始めてしまうところはやはり変わらない。

 しかしそのまま沈黙の朝食時間を過ごすのは何となく息が詰まるようだったので―― 一人の食事だとそんなに気にならないのに、不思議と彼女には気を使いたくなる――、自然に、あくまで自然に話しかけてみた。


「…なぁ、ここにきてからずっと部屋に篭ってたの?」

「まあ、そうね」

「飯とか……」

「適当に、棚からお菓子とか貰ったわ。 それ以外は部屋から出てないかな」

「あ、そ…。 ……どおりで減りが早いと思ったら……むしろ歓迎だけど。 じゃあ、部屋で何を」

「何でもいいでしょ。 ………いっとくけど」

「わかってる、気になるからって勝手に入らないって、うん。 了解了解」


 まだ疑いの視線を向けてくるリタに、「ホントに、大丈夫」と必死に訴えた。この子に人間を信じさせるのは、まだまだそう簡単ではないようだ。これがエステルなら幾分か楽なのだろうか。

 それにしても、食事以外部屋から一歩も出ていないというカミングアウトを受けて黙っているわけにもいかない。どうにかして口実を作りたいところだ。

 黙々と食事を進めるこの少女にどこか遊びに行こうと言っても、目的も無く外出するという無駄なことはいかにも嫌いそうなので「馬鹿っぽい」の言葉で一蹴されるのがオチだ。どうしたものだろう。

 思考回路を働かせているうちに向かいの席から陶器と金属器がぶつかり合う音。あっという間に朝食を食べ終えてしまったらしい。こちらはまだ半分ほどしか進んでいない。

 リタはそのまま席を立ち上がりかけ、思い出したように「ごちそうさまでした」と半ば棒読みで手を合わせ、テーブルに背を向けたあたりで再び動きを止めた。


「ごはん、ありがと」

「…ん? あー、どういたしまして。 毎日ちゃんとしたもの食べんさいよ。 でないと大きくなれんわよー」

「もう成長期はすぎてるから。 ……それだけ」


 昔はこの会話の流れで威勢良く食いついてきたものだ。今となっては懐かしい。

 ……じゃなく。このまま行かせると再び引き篭り生活まっしぐらである。何とか引き止めなければ!…完全に、自分のエゴしか理由はないが。

 話しかける瞬間ちら、と見えたのは綺麗に食べ終えてくれたリタの朝食の皿。


「ちょーっと、まった!」

「………何。 忙しいんだけど」

「いや、忙しいのはこっちも一緒なんですけど…。 まあいい。 リタ、自分用の食器って欲しくない?」


 は?といいたげな視線が痛い。呆れではなく、疑問を浮かべているのが尚更。

 めげるな、俺。


「ほらこれ、お客用だしさ。 家具も倉庫に眠ってた古いのばっかりでなんというか……。 …まあとにかく、新しいの市場で買ってあげるから、リタの好きなやつ」

「………………」


 かなり無理矢理な理由だということが向こうにも伝わってしまっているだろうか。暫くの沈黙がどんどん不安を駆り立てる。

 じっと俺を見て、今度は先程自分が使っていた空の皿を見つめる。そして視線は俺へと戻り、その瞳をゆっくり眇めてから、うつむきがちになって呟いた。


「…ちょうど、道具が足りなかったの。 一緒にそれも買ってくれるなら、行ってあげてもいいけど」


 ここで断ればどう言い繕っても「一人で買って来い」の一言だ。肯定以外の行動とその理由はどこにもなかった。

 さっきの言葉も、リタなりの言い訳らしかった。出会ったばかりならすっぱり断られて最悪何かしらの術をぶつけられたのだろうが、今は少しは心を許してくれているらしい。

 …なんだろう。じんわりと心に広がってくる感動。嬉しかった。純粋に。

 行くなら早くいきましょ、と言って、リタは部屋へ戻った。着替えに行ったのだろうか。ここで口約束を反故にするような子ではないと信じたい。

 早くと言われた以上、下手すると提案したこちらが置いていかれる可能性もあった。俺は慌てて皿の上の食事をかき込み、外出の準備を急いだ。



















 朝の空気は涼しい。湿気の多いアスピオとは違う、爽やかな空気に満たされていた。

 市は始まったばかりといった様子で、人影も少ない。しかし、これから昼過ぎにかけて増えていくのだろう。

 半ば無理矢理というか、こじつけた理由で外へ連れ出そうとした彼の意図は大体読めている。大方、引き篭もりになっているあたしを少し外の空気に触れさせてやろうくらいの考え。


(こっちはこっちで忙しいってのに)


 何に忙しいかなんて、すこし自分を知る人物なら誰でもすぐにわかることだ。魔導器が機能しなくなった今、既にある意味生きがいにもなっているように思う。

 それでもレイヴンの我侭に付き合ってしまうあたり、自分でもかなりのお人好しになってしまったものだと苦笑する思いだ。エステルやユーリにでも影響されたのかもしれない。

 市場にはいろいろなものが並んでいた。買い物好きなら一日中居ても飽きないだろうが、生憎そんな趣味はなく、必要なものだけ買って帰るつもりで居た。

 向こうだって、外に連れ出すのが目的なのだからそう長居する気も無い筈だ。

 …と思って振り向いたら、すぐ後ろに居るはずの姿がはるか遠くの店で足止めを食っていた。あのおっさん。

 「なにしてんのよ」声を張り上げるとこっちに気付いたレイヴンは慌てて駆けてくる。


「せっかく市場に出たんだし、ゆっくり品定めしてっても…」

「食器買うんでしょ、あとあたしの研究道具。 置物には興味ないの」

「え〜、でもリタの部屋にももう少し飾りっ気欲しくない?」

「いらない。 機能性重視」


 お堅いわね〜、と唇を尖らせるレイヴン。それでも興味ないものは興味ないし、いらないものはいらない。時間と置き場所とガルドの無駄というものである。

 いくら全部レイヴン持ちだからといって、遠慮を知らないわけではない。

 騎士団とギルドの掛け持ちが一体どれほどの稼ぎか、どちらも縁のない役職のため見当もつかないが、無理を言えば財政破綻するのはどこだって一緒だと思う。

 しかし、向こうはあたしに尽くそうと必死だ。そこまで気にかけてもらう様な存在じゃないし、一体何を思っているのだろうこいつは。


「まあ、買わないのはいいからさ、ゆっくり見て回ろうよ。 意外と楽しいもんよ?」

「……。 嫌っていっても、おっさんがとろとろ歩くでしょ。 仕方がないから、あたしがペース合わせてあげる」


 はあ、とため息をつきながら言うと、レイヴンは満足げに微笑んだ。その笑顔がくすぐったくて、思わずふいと顔をそらしてしまう。

 言い訳を言わないと承諾できない自分が少し歯がゆいこともある。でも、人の意見に翻弄されるのは何となくプライドが許さないのだ。

 その後は少し寄り道をしながら、良さそうな食器を扱っている店を探した。歩調はレイヴンに合わせて、ゆっくりと。

 落ち着いて市場を回るなんてことは、考えもしなかった。しかしこうしてやってみると、なかなかに面白いことがわかった。

 俗に言う『冷やかし』という行為の繰り返しだったが、レイヴンが色々な商品を手にとって、店員が売り込む為に説明を加えて、あたしに話題を振って、呆れて、笑って。

 そんな些細なことが楽しくて、そのきっかけになっているのがこの買い物なのだと思うと、悪くないなと思うことが出来た。

 しかも、レイヴンが途中で拾う商品の殆どが服や置物といった類で、それもあたしに似合いそうなものを選んでいたのには、ため息半分、嬉しさ半分だった。


「あたしのものばっかりじゃなくて、おっさんもなんか買わないの?」


 何店めかの冷やかしに区切りがついたところで、実際にはあたしもまだ何も買ってもらってはいないけど、あたしはレイヴンに聞いた。

 すると、この男は当たり前のようにこう言うのだ。


「今日はリタの為の買い物だから。 何でも買ってあげるから何かあったら遠慮せずに言って頂戴ね」


 そのあとに「おっさんの財布に対する気遣いは失くさないでね〜」とへらへらした顔でおどけた台詞を付け加えられると、らしくない台詞もあっという間に胡散臭くなるのだから不思議だ。

 ふざけなければ普通に人気がありそう、と思うと同時に、道化でありふざけているからこそのレイヴンなのだとも思う。今のままでも十分人望は厚いのだし。信じがたいけれど。

 今日何度目かのため息をついて、視界の端に移った露店をちらりと覗く。白い陽の光を鮮やかな虹色に反射する、綺麗な陶器細工。

 あ、と気付いたのは、二人同時だった。ようやく食器専門の露店を発見したのだ。


「……このお店、ちょっと見てく」

「ここで選ぶ?」

「食器屋ってここだけってわけじゃないんでしょ。 良い物がなかったら別のところへ行くわよ」


 あたしの目にかなうものがそうそうあるとは思えない――なんて思うことは生涯一度もないと断言できる。魔導器や術式に関係しない限り。

 正直、食器なんてどれも同じだろうと考えていた。微妙な装飾の違いや、色、大きさ、用途の差はあれど、食べ物の受け皿であるのは変わらない。

 なので、ここで適当な食器をセットで一式買って、買い物を早く済ませよう。そんな魂胆があった。

 スタンダードな白陶器、ちょっと豪華な金縁食器、陽光が透き通る光と影のコントラストが綺麗な硝子、ハルルの樹を思い出す花弁模様が縁に描かれたもの。

 あたしの代わりにレイヴンがあれこれ悩んでいるのを横目に見ながら(馬鹿っぽい)、花弁模様の食器が一式入った箱を指差して、「これにする」とレイヴンに示した。

 レイヴンはあたしの指の先にある箱の中身を覗き込み、「おっ」と声を上げた。


「意外と可愛いもの選んだじゃないの。 ハルルの花弁に似てんね、これ。 へー」

「そんなこと関係ないでしょ。 別に、エステルの事なんて、」

「んー? 俺様は、ハルルの結界魔導器を思いだしてたのかなーと思ったんだけど、そっか嬢ちゃんかー」


 はたと気付いた時には、レイヴンはにやにやと意地悪い笑みでこちらを見ているのだった。

 耳まで朱に染まる人の気持ちを嫌と言うほど味わいながら、あたしは拳を固めてレイヴンの横顔を力いっぱいに殴った。ぶほへ、と情けない声。続いて路面にぐしゃりと倒れる音。

 目の前で起こった暴力沙汰を前におろおろとしている若い男性店員に、ずいと箱を差し出す。


「これ貰うわ。 払いはそこのおっさんがしてくれるから」


 店の横で倒れ伏しているレイヴンを親指で指しながら言うと、店員は困惑しつつも購入取引の定型文を口で唱えた。営業スマイルは若干硬いままだったが。

 店員は花弁模様の食器がはいった箱に、キャンペーン中だといってスプーンやフォークもいくつか詰めて、丁寧に梱包していく。

 不意をつかれたのはその作業の間だった。


「仲が良いですね。 親子さんですか?」

「………は」


 まだ地面に顔を突っ伏しているレイヴンを見ながら、こいつをまた殴り飛ばしたい衝動に駆られた。でも我慢だ。相手は赤の他人。

 どこをどう見たら仲の良い、しかも親子になんて見えるのだろうか。疑問は尽きない。苛々しながらようやっと、


「違う。 違い、ます」


 とだけ言った。













「親子だって」


 くつくつとおかしそうに喉を鳴らすレイヴンに、あたしは思わず振り向いた。レイヴンが相変わらず後を追う様に歩いてくるのは、両手に抱えた大きな箱の重量の所為だと今なら言い訳できる。


「! ……あんた、聞いてたの」

「これでも天を射る矢の重要幹部よ? 情報収集は基本中の基本」

「騎士団のほうの仕事はおおっぴらに言わないのね」

「あっちは兄さんの仕事の後釜に居座ってるだけだし」


 まだその嘘続いてたの、と、ここは笑うところである。道化である存在なりの、レイヴンなりの精一杯のジョークに。

 帰路の途中で、あたしは目に付いた使えそうな道具を片っ端からレイヴンのもつ箱の上に乗せてゆく。

 勘弁してよと悲鳴を上げても、やめない。


「………お父さん、なんでしょ。 娘に荷物もたせる気?」


 ぽそりと呟いたその言葉は、レイヴンに先程の借りを返すのに十分な効果を発揮してくれた。口も目も開けて、驚き以外の何の表情だと言えよう。

 ひとしきり驚いたあと、それはゆっくりと微笑みに変わる。むしろ、ことさら嬉しそうだった。さらに満面の笑みへと変化する。


「リタ、そういうの嫌いかと思ってたけど。 ほうら、それなら好きなだけパパとか呼びなさいな」

「勘違いしないでよ。 ホントはおっさんみたいなへらへらした人じゃなくて、もっとすごい人なんだから」


 きっと、としか言いようがないけれど。

 あたしが生まれてすぐに亡くなったという本当の父。だから全然、どんな人か、どんな顔をしているか、知らない。

 だから、この頼りないおっさんにだって少しくらい、父性を求めたっていいのではないかと。そう思わせる何かが、あたしのどこかに存在していた。

 考えていたら急に恥ずかしくなってきて、さっさと帰るわよ、と怒鳴ろうとしたら、そこには誰の影も形もなかった。

 驚かせた瞬間に逆に驚かされてしまった。すぐ横の店にレイヴンの背中を見つけて、「ちょっと」と呆れ気味に声をかけた。


「もういいでしょ、寄り道は。 買い物も終わったし、外に出るだけなら――」


 言いかけて、ふわりと首に乗せられた感触に言葉を止めた。

 首元に目をやると、綺麗な硝子の玉が三つ細い糸に通されただけのシンプルなペンダントが掛かっていた。

 夕焼けより鮮やかな赤、空よりも澄んだ青、森よりも深い緑。


「ほら、星喰みやっつける時にさ、リタの武醒魔導器から魔核抜けちゃって、首元寂しそうだったし。 今日の買い物の行きでふらふらしてた時に見つけたのよね」


 お父さんからのプレゼントってことでひとつ、と笑うレイヴン。

 あの武醒魔導器の筐体は、今も大事にとっておいてある。確かに、外した当初は首元を吹き抜ける風が冷たく感じる時もあったけれど。

 レイヴンが気にしているとは思っていなかった。もしかして、最初からこれが目的だったのだろうか。

 ずっと身につけていた魔導器をなくして、寂しがってるだろうあたしを思って?


「馬鹿っぽい」


 無表情で思わず呟いた言葉にレイヴンは「気に入らなかった?」とおどけた口調で、でもその実、慰めが失敗した残念さが入り混じっている声音で言った。

 あたしが拗ねるとすぐ不安がるレイヴン。大袈裟だし、心配性だし、何であたしの事だけこんなに構うのか分からない。

 けどひとつだけ、わかってきたことがある。


「でも、もらっとく。 ありがと」


 あたしのこういう素直な言葉が、レイヴンには何よりも嬉しいんだって事。

 レイヴンは満足げな顔になって、再び重たい荷物を担ぐ。今度こそ、きちんと帰路に着くだろう。







 ペンダントの青い硝子球より少し濃い色をした青空から、まだ赤には程遠い色をした陽の光が市場を照らしていた。